酔っ払い先生
酔っ払い先生
父の仕事の都合で、東京でアパート住まいをすることになった わたしは中学生になったばかりだった このアパートには学校の先生が2人住んでおられた 二人とも独身の男性で 数学と国語の先生 国語の先生は転校生のわたしに、なにくれとなく目をかけ親切にしてくださった 母がよろしくと頼み込んでいったからなのか、 あるいは、父との二人暮らしを応援してくれていたのか 学校でもアパートでも、会えばいつもニコニコと話しかけてくれ 時には 先生の部屋で、おかしをいただいたりもした 先生の部屋は 子供心にもいつもキチンと片付いていた。 窓が大きく開けられ、白いいレースのカーテンがヒラヒラときれいだった 国語の先生はまもなく結婚されてどこかへ引っ越された 数学の先生は 学校であうと、おおっと声にならない声で合図をくれるのが常だった ぐしゃぐしゃの天然パーマとめがね姿 あまり、身奇麗なタイプではない ついたあだなは 天才先生 サテ 忘れられないことがあったので 分かったことがある 先生の正体 実は 酔っ払いだったのだ アパートの廊下で会うと、なんだかいつもフラフラしていて変だとは思っていたが ある日 たしか土曜日の夜だったと思う 廊下でただならない声がする 15~6の部屋の住人達が一斉にドアーをチョッと開けて覗いている 驚いた 先生ではないか (アパートの貧乏人諸君)大演説が始まっていた 次から次へ大きな声だったり、小さな声だったり 何の話なのか、聞こえるのはただこの (アパートの貧乏人諸君)だけ ナント、先生は廊下の真ん中で大の字に寝転んでいる 時々足をバタつかせ、何度も、(アパートの貧乏人諸君)って怒鳴る (アパートの貧乏人諸君)で始まり、終わったこの演説 出来れば その続きを 聞いてみたい気がする なにか大切なことを、言いたかったのではないか? しかしまあ・・・ なんといっても 酔っ払いのスピーチだ その上 聞き手は中学生のわたしては どんなステキな内容であったとしても 理解不能のままだったにちがいない 不思議なことに(アパートの貧乏人諸君)と大暴れしていた 天才先生のことが 妙に 鮮やかな思い出となって、残っている 自宅のドアーをチョッと開けて覗いていたアパートの住人の表情まで、思い出すことが出来そうなのも、不思議と言えば不思議である。
by artartart100
| 2007-06-09 13:03
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